Top  Fine Art Works  Film Works Design Works Profile  Art Review  Blog  Links
Tadaya Miyashita,
Art Review

Exhibitions
Artists
■ヤマガミユキヒロ
YAMAGAMI, Yukihiro
NightWatch
video projection
acrylic on panel , DVD , video projector, 4960mm×2000mm, 2005
 ヤマガミユキヒロは、キャンバスに描かれた風景画に、まったく同一の構図で撮影された写真やヴィデオ映像を重ねることで、絵画表現に時間軸を導入しようと試みてきた。このインスタレーション作品『Night Watch』は彼の近作であり、2005年夏に京都のギャラリーそわかにて発表された。
  Yukihiro Yamagami has tried to introduce the time into paintings using photo/video projectors. His method is throwing moving images on painted pictures, and the images have the identical composition with his paintings. This installational works titled "Night Watch" was exhibited at the gallery SOWAKA, in summer, 2005.
1976  大阪府高槻市生まれ
2000  京都精華大学美術学部造形学科卒業
Yukihiro Yamagami; Profile and Comment
expression of a existence1
slide projection
oil on canvas , slide projector, 1940mm×1303mm,1999
映像の世紀に探る絵画の可能性
 ヤマガミユキヒロは、京都・大阪のギャラリーを中心に、絵画とプロジェクター用いた作品の発表を行っている若手現代美術家だ。彼は2000年ごろから、交差点、電車のプラットホーム、コンビニエンス・ストアの陳列棚など、人や物の移動流通に関わる場所をパノラマ的風景画として描写し続けている。そして何よりも彼の作品を特徴づけるのが、自身が描いた風景画に、まったく同一の視点からカメラで撮影された映像を投影するという表現手法だ。
Noises,Crowds And SilentAirs
slide projection
oil on canvas , slide projector, 1303mm×1303mm, 2003
 ヤマガミユキヒロが、絵画に映像を投影するスライド・プロジェクションという手法を使い始めたのは1999年、"expression of a existence" [存在の表現]と題された一連の作品からである。左に掲載した、このシリーズの始まりとなった作品『存在の表現1』は、アトリエに置かれた一脚の椅子に腰掛ける人物を描いた肖像画だ。キャンバスに描かれた人物はしかし、顔の判別のつかないほどぼやけ、その上に投影された半透明の身体は、ヤマガミにとってモデルの存在自体があやふやなものであったかのような印象を与える。
 彼はこの作品において、キャンバス上に対象の外見だけでなく、その存在自体を描き出そうと様々な試行錯誤を行っている。モデルのポーズが微妙に変わるたび形を取り直し、服が変われば色を塗り重ね、また、アトリエに散乱した物の配置の違いまでもいちいち描き直したという。乾くまでに時間の要する油彩でこのような作業を続ければ、当然輪郭はぼやけ、色の混じりあった灰色に近い画面が出来上がるだろう。
 描けば描くほど曖昧になってゆく、対象の色や形。それはまさに、人生において流動的に変化してゆく人間関係や個々の存在そのものではないか。ヤマガミは、この輪郭のぼやけた絵画に、制作過程に撮影したスナップショットを投影し、キャンバスに残された痕跡が結局捕まえきれなかった他者の存在であるのだということを、観る者に打ち明けている。
 描くために相当な時間要する油画と、一瞬を捉える写真。この表面上は似通っていても、本質の異なる二者をここで並列させたことは、その後の彼の制作の方向性を決定付けた。描くために対象を見つめ続ける画家の視点と、静止した画面の間に生まれるジレンマは、このスライド・プロジェクションという手法の導入によって、つまり時間軸を絵画に取り込むことで解消されたが、そこにまた新たな問題が浮上するであろうからだ。
 2003年の作品 "Noises,Crowds And SilentAirs"では、一点の消失点に向かってすべてが収斂していくルネサンス以来の透視画法を強く意識した構図で、大阪の交差点が描かれている。ここで意識されている「遠近法」という絵画の伝統技術はしかし、現代においてはカメラレンズの視点に他ならない。ヤマガミも、その他大勢の画家と同じように、この作品の制作にあたり写真を第一の資料としている。したがって彼は、写真を拡大し描いた絵画に再び元となった写真を投影していることになるのだ。では、この2重の行為は、一体何を意味するのだろうか?
 ヤマガミユキヒロの一連の作品は、私にダゲールのジオラマを思い起こさせる。ダゲールと言えば1838年の銀板写真ダゲレオタイプの発明で知られているが、そのキャリアは意外にも画家から始まっている。その一介のパノラマ画家、ダゲールを一躍有名にしたのが、1822年のジオラマの発明である。ダゲールのジオラマとは、現在一般的に指される小型模型のことではない。それは19世紀を代表する見世物の一つであり、半透明のキャンバスに描かれた巨大な風景画に数種類のレイヤーを重ね、その背後から光を当て幻覚にも似た映像を生み出す大掛かりな視覚装置である。写真を拡大し描いた絵画に、プロジェクターで写真を投影し新たなレイヤーを重ねるという行為は、背後から光を当ててレイヤーを重ねるジオラマと、ポジとネガの関係にあるだろう。そして、ジオラマに用いられた風景画は、カメラ・オブスキュラによる正確な遠近法に基づき描かれた、カメラ的視覚を持った絵画と呼べるものであった。
 ヤマガミは、自身の手法を「絵画という枠組みの拡張」と位置付けているが、私はむしろ彼の行為を「カメラ的視覚の絵画への回帰」と受け取る。絵画の延長として発達した映像表現や視覚装置は、写真の発明により絵画という枠組みから離脱し、テレビや映画を視覚文化の中心へと押し上げた。私には、一時映画製作を志したこともあるヤマガミが、絵画とカメラ的視覚の関係をダゲールのジオラマに見られる位置にまで押し戻し、そこから歴史がたどった道とは別の方向へと再出発させようとしているように思えてならない。そしてそれがどこに向かうのか、彼の今後の展開に期待したい。
                                 ■Tadaya Miyashita, Art review, 2006/3/3

inserted by FC2 system